玉江峰子事件における「意思確認」の欠如

(平成15年5月7日)
鎌倉市:  岩井俊弥    


 5月6日付けの投稿「南都銀行のきわめてずさんな融資実態の一端が明るみに」
に次のようにある。

「(3) 南都銀行総合企画部のコメントについて、契約法上の大原則である
「意思確認」を行わない契約だったということを、南都銀行自身が認めていると
いうことです。 つまり、南都銀行は契約に際して「意思確認」を行っていない
ということです。 記事の通り、この事例は氷山の一角にすぎないかもしれませ
ん。 同様の不良債権を南都銀行はさらに隠しているということでしょうか。」

「意思確認」を行わないこと。 企業と個人との紛争のほとんどは、この、「意
思確認」の有無が争点になる。

「玉江峰子vs. 新北九州信用金庫事件」でも同様であった。
http://www.isdnet.co.jp/~sinkita/tamaemineko.html

玉江峰子事件では、信用金庫による証書や手形の偽造の疑いがもたれているが、
ここでも、「意思確認」は存在しなかった。 この事件で、注目すべき点は、司
法書士の役割である。

我が国の法律では、不動産の物権変動に際して、登記が対抗要件である。
司法書士は、その登記事務の代行をする。 司法書士には、登記という公的な職
務ゆえに、特別に双方代理(登記義務者:例えば、抵当権設定者、と登記権利者
:例えば抵当権者との双方の代理を同時に引き受けること)が認められている。
従って、司法書士には、登記事務を代行するにあたって、登記義務者と登記権利
者との意思確認を行う責任がある。

しかし、最初の証書貸付(平成元年10月16日付け、2600万円)の抵当権設定契約
に際して、玉江峰子さんは、その契約の場に立ち会っていなかったと、司法書士
事務所の女性補助者が明らかにしている。 証拠は次の録音である。
http://www.isdnet.co.jp/~sinkita/voice001.html

つまり、玉江さん(登記義務者)の「抵当権を設定します。」という意思と、信
金(登記権利者)の「抵当権をいただきました。」との意思の合致を、司法書士
は確認しなかったということだ。 (義務者不在なのだから確認不能である!)

登記に際して、行政側の登記官には、形式的審査権しか付与されていないため、
申請書の書類が整っている限り、登記申請は受理されてしまう。

つまり、抵当権設定者の印鑑証明書、登記済証(いわゆる権利証)、契約書、
住民票など必要書類が、「見かけ上」そろってさえいれば、登記官は、「登記義
務者は、権利証と印鑑証明書を提出しているように見えるから、抵当権設定と言
う不利な立場を受け入れているのだろう。」と解釈し、あとは、機械的に登記を
進めてしまう。 これが、「形式的審査権しか付与されていない」という意味で
ある。 (これは、法律でそのように決められていることなので、仕方ない。)

従って、司法書士が、過誤登記、虚偽登記を防止する、最後の防波堤だったの
だ。 玉江峰子事件では、この防波堤が破られた。 逆に、司法書士を上手く抱
き込めば、好きなように不正登記が可能になるとも言えるかもしれない。
(つまり、司法書士が、この事件を一番良く知っているということだ。)

告訴状には、次のようにある。

「告訴人が本件訴訟中に事実関係を明らかにするため関係者を訪ね歩いていたと
ころ、右金庫の告訴人に対する貸付金に関連して不動産登記申請の手続きをした
M司法書士事務所の女性職員のE(同事務所の番頭格)に会って登記申請に至る事
情を子細に問い質したところ、告訴人が借入の申込みを取り消した金五〇〇万円
二口の登記手続きの書類は、右金庫職員海野頼光が直接右M事務所に持ち込んで
おり通常の右金庫の融資課窓口での書類の受け渡しでなかったこと、その折り右
海野はEに対し告訴人の実印を預かっている旨告げ白い象牙製らしき印鑑を見せ
ていること、平成元年一〇月一六日付の金二、五〇〇万円の貸付金の融資実行の
時は告訴人の同席立会が無いまま物件売主の国内信販株式会社の担当職員と取引
決済を済まし右Eに所有権移転登記および抵当権設定登記の申請を依頼したこと
などが判明した。」
http://www.isdnet.co.jp/~sinkita/g0005.html
http://www.isdnet.co.jp/~sinkita/kokusojo.html

ここでも、玉江さん抜きに、登記事務が進められていたことは、明らかだ。

告訴状は、次のように続く。

「この白い象牙製らしき印鑑について、後日告訴人が再度右Eに確認したところ
、印影は告訴人の銀行印と全く同一のものであった。 告訴人の銀行印は柘植
(つげ)製の印鑑であり、象牙製のそれとは一見して見分けのつくものである。」

ちなみに、この登記事務を代行したU司法書士は、昨年急死したそうだ。